用語解説
みのりフーズ
岐阜県羽島市の製麺業者。こちらの(実質的)経営者岡田正男容疑者がジャパン総研木村容疑者と共に、廃棄食品の不正転売に関わっていたことがわかりました。
事件発覚後、「違法性があるとは全然思っていない。タダでもらって売ったのならともかく」と発言するも、彼の逮捕を持ってその法的解釈は誤りであることが明らかになりました[1]。
前段
株式会社壱番屋がダイコー株式会社に食品廃棄・社員食堂の残飯処理を委託
株式会社壱番屋(以後壱番屋)は、産業廃棄物に当たる廃棄食品の処理と、一般廃棄物に当たる社員食堂から出る残飯処理をダイコー株式会社(以後ダイコー)依頼しました[2]。しかし、ダイコーは一般廃棄物処理の資格を有してはいませんでした。
事件の沿革
壱番屋がダイコーに冷凍ビーフカツ廃棄を依頼
壱番屋は、製造過程でプラスチック片混入の可能性があるため、ダイコーへ冷凍ビーフカツ40,609枚の廃棄処理を依頼しました[3]。ダイコーはこれを「全て堆肥化した」と報告して廃棄委託料約28万円を受け取りました。
みのりフーズからジャパン総研、食品卸売業者へ
みのりフーズの岡田正男容疑者はジャパン総研株式会社(以後ジャパン総研)の木村正敏容疑者と共に、冷凍ビーフカツに「みのりフーズ OM」のラベルを貼り別の箱に詰め替えて、東海3県と静岡県の食品卸売業者、スーパー、弁当店など118の業者に販売しました[5]
廃棄した冷凍ビーフカツの一般流通が発覚
壱番屋系列店勤務のパート従業員が買い物中に、本来は店頭に並ばないはずの壱番屋製冷凍ビーフカツを発見し、本社に報告したことでダイコーによる不正転売が発覚しました[6]。
冷凍ビーフカツ以外の廃棄製品の不正転売が発覚
壱番屋は、先に発表した冷凍ビーフカツ以外にも、冷凍チキンカツ、冷凍ロースカツ、冷凍メンチカツ、ナポリタンソース、ラーメンスープがダイコーによって不正に転売されていたことを発表しました[7]。
発覚のその後
壱番屋は廃棄食品の不正転売問題を受けて再発防止策を発表
壱番屋はこの問題に対し、これまでの対策に加えて食品廃棄物の排出について以下の措置を講じると発表しました[8]。
- 製品の廃棄時には包材(パッケージ)から取り出して、堆肥原料に混ぜ込む
- 製品のまま廃棄する際は、社員が立ち会い確実に処理されたことを目視確認
- 産業廃棄物処理業者の選定を慎重に行い(ダイコーとは取引停止済み)、取引後の処理状況の確認も徹底検討
環境省は同様事案の報告が無かったことを発表
環境省は本件を受けて、直ちに産業廃棄物処理業者等への立入調査を実施した結果、同様の事案の報告が無かったことを発表しました[12]。
愛知県はダイコー保管の廃棄食品を撤去命令
愛知県は、休業状態にあるダイコー保管の腐敗しつつある廃棄食品の早期撤去を求めるとともに、廃棄委託した各食品メーカーへの自主回収を促しました[13]。
愛知県産業廃棄物協会がダイコーを除名処分
愛知県産業廃棄物協会は臨時総会を開き、「協会の名誉を毀損し、業界の信頼を失墜させた」などとして、ダイコーの除名処分を決定しました[14]。
三重県と岐阜県がダイコーの産廃収集運搬業許可取り消しを決定
三重県と岐阜県は、両県にある無届けの倉庫が廃棄物処理法違反にあたるとして、ダイコーの産業廃棄物収集運搬業許可を取り消しました[19]。
愛知県がダイコー保管の排出先不明の廃棄食品を撤去
愛知県は事実上倒産したダイコーが保管する排出元不明な廃棄食品について、約4000万円を費やして処分しました[20]。
この処理作業には本来約2億1400万円の費用が必要でしたが、協力機関による無償協力がありました。
愛知県がダイコーの産廃処理業許可取り消しを決定
愛知県は、2006年ごろから無許可で堆肥化以外の別の処理をしており、これが廃棄物処理法違反にあたるとして、ダイコーの産業廃棄物処理業、収集運搬業の許可を取り消しました[21]。
ダイコー大西一幸被告に懲役3年、執行猶予4年、罰金100万円
名古屋地裁は、詐欺・食品衛生法違反の罪で、ダイコー会長大西一幸被告に対し、懲役3年、執行猶予4年、罰金100万円(求刑懲役3年6月、罰金100万円)の判決を下しました[25]。
みのりフーズ岡田正男被告に懲役2年6月、執行猶予3年、罰金50万円
名古屋地裁は、詐欺・食品衛生法違反の罪で、みのりフーズ元実質的経営者岡田正男被告に対し、懲役2年6月、執行猶予3年、罰金50万円(求刑懲役2年10月、罰金50万円)の判決を下しました[26]。
ジャパン総研木村正敏被告に懲役2年6月、執行猶予3年
名古屋地裁は、詐欺罪で、ジャパン総研元幹部岡田正男被告に対し、懲役2年6月、執行猶予3年(求刑懲役3年2月)の判決を下しました[27]。
要点まとめ
- ダイコーらは5年以上前から、「破格の安値」で全国の食品メーカーと契約し、集められた廃棄食品を不正転売していました[28]。
- 本件は、国や地方自治体による監査ではなく、壱番屋のパート従業員が偶然的に発見したことによって発覚しました。
- ダイコーが保管(既に腐敗も)していた廃棄食品は、委託したメーカーが自主回収し、残りは県と協力会社によって処分されました。
- 壱番屋は改めてダイコー側に対して損害賠償を求める提訴を検討しています[29]。
- 環境省は農林水産省とも協力して、再発防止策を発表しました。
- 日本の食品廃棄物等の総量は年間約2800万t(うち事業系が1916万t)で、このうち本来食べられるにもかかわらず捨てられている、いわゆる「食品ロス」は約642万t(うち事業系が331万t)[16]
再発防止策
環境省は、本来適切に廃棄処理されるはずの食品が、不正に転売されていたことを受け、食品廃棄物の処理について以下のような再発防止策を発表しました。
電子マニフェストの機能強化
- 電子マニフェストの虚偽記載防止のため、記載内容に不自然な点があった場合に、不正を検知できる情報処理システムの導入を検討。
- また、排出事業者において、委託契約に沿った廃棄物の適正処理の実施状況を具体的に把握するため、例えば、 廃棄物処理業者が実際行った処分方法を記載事項に追加する等、必要な措置を検討。
廃棄物処理業者に係る対策:透明性と信頼性の強化
(監視体制の強化)
- 都道府県に対して、産業廃棄物処理業者への抜き打ちの立入検査など、監視強化の取組について改めて通知。 併せて、食品廃棄物の不正転売に係る立入検査マニュアルの策定を検討
- 地方公共団体と連携しつつ、食品リサイクル法の登録審査及び登録事業者に対する国の指導監督を強化(※)
(適正処理の強化と人材育成)
- 不正転売の未然防止に向けた一層の取組強化を廃棄物処理事業者に求め、環境省としてその取組状況をフォローアップ
- 処理状況の積極的な公開
排出事業者による現地確認の積極的受入れとその際に参考となるチェックリストの整備処理量等の処理状況に関する情報のインターネットを通じた積極的な情報公開 - 優良事業者の育成・拡大
廃棄物処理法に基づく優良産業廃棄物事業者認定(注)の取得の推進
優良な食品リサイクル業者育成・評価のための自主基準の策定や評価制度の構築
廃棄食品の処理業者に対する研修の実施や民間資格制度の創設
(注)通常の許可基準よりも厳しい基準をクリアした産廃処理業者を認定する制度
- 処理状況の積極的な公開
排出事業者に係る対策:食品廃棄物の転売防止対策の強化
- 排出事業者責任の徹底のため、排出事業者を対象として廃棄物処理法令で規定されている、同責任に基づく必要な措置(処理状況の確認や適正な処理料金による委託等)についてチェックリストを作成し、当該措置の適正な実施について、都道府県に通知し、関係事業者への指導に当たり、その活用を推進。
- 食品関連事業者に対して、食品ロスの削減を要請するとともに、やむを得ず食品を廃棄する場合には、そのまま商品として転売することが困難となるよう適切な措置を講じることを要請(併せて、廃棄食品の処理について適正な料金で委託することも改めて要請)。(※)
- 食品廃棄物をそのまま商品として販売することが困難となるよう適切な措置を講じる等、食品リサイクル法における食品関連事業者が取り組むべき措置の指針(判断基準省令)の見直しを検討(※判断基準を勘案して指導・助言を実施) (※)
- 食品廃棄物の不正転売防止のための措置に関するガイドラインの策定(※)
※食品リサイクル法に基づく取組について、農林水産省等と共同の取組は(※)を付記。
編集後記
まず驚いたのが、本件の発覚が偶然的なものであり、数年間全く気づかれることなく続けられていたことです。脚注にもありますが、工場を規模拡大することなく「破格の安値」で廃棄委託処理を請け負っている段階で、何らかの「怪しさ」に気づくことが出来なかったのでしょうか。
その後、環境省は再発防止策を発表しましたが、こちらが無事機能することを期待します。
脚注
- ^ 「昔は腐ったご飯も洗って食べた」廃棄カツ「転売業者」開き直り――違法じゃないの? - 弁護士ドットコム
- ^ 1, 2, 壱番屋:社食残飯廃棄もダイコーに委託…処理法に抵触か - 毎日新聞
- ^ 1, 2, 【廃棄カツ横流し】ダイコー会長ら3人逮捕、「CoCo壱」へ食品と偽り販売 詐取容疑などで愛知・岐阜県警(1/2ページ) - 産経WEST
- ^ 廃棄カツ不正流通容疑でダイコー会長ら逮捕 産廃業者適用は異例
- ^ 箱を詰め替え「ごみ」が「食品」に カツ不正転売の実態:朝日新聞デジタル
- ^ 産業廃棄物処理業者による、当社製品(ビーフカツ)不正転売のお知らせ - プレスリリース|株式会社壱番屋
- ^ 産業廃棄物処理業者による、当社製品不正転売に関する続報 - プレスリリース|株式会社壱番屋
- ^ ダイコー株式会社による当社廃棄食品の不正転売問題を受けての再発防止策について - プレスリリース|株式会社壱番屋
- ^ 【廃棄カツ横流し】イオンのソーセージ、ローソンの空揚げ…ココイチ以外にも大量の廃棄食品次々と、調査難航で見えぬ全容(1/2ページ) - 産経WEST
- ^ みのりフーズ、ニチレイ商品も転売 ダイコーから入手 - 岐阜新聞 Web
- ^ 「産廃食品」セブンやローソンの処分委託「からあげクン」「豚バラ蒲焼き」も横流し? : J-CASTテレビウォッチ
- ^ 環境省_「食品廃棄物の不適正な転売事案の再発防止のための環境省の対応について(案)」について(お知らせ)
- ^ ダイコーに廃棄食品撤去を命令へ 無届け倉庫で超過保管:朝日新聞デジタル
- ^ ダイコー、業界団体が除名 「信頼を失墜させた」:朝日新聞デジタル
- ^ ダイコーの登録再生利用事業者取り消し 環境省など:朝日新聞デジタル
- ^ 1, 2, 環境省_「食品廃棄物の不適正な転売事案の再発防止のための対応について(廃棄物・リサイクル関係)」について(お知らせ)
- ^ 廃棄食品横流し:ダイコーが事実上倒産 - 毎日新聞
- ^ 本日の一部新聞報道について - プレスリリース|株式会社壱番屋
- ^ 三重・岐阜県、ダイコーの産廃許可取り消し 食品横流し:朝日新聞デジタル
- ^ ダイコー株式会社に保管されている廃棄物の撤去について - 愛知県
- ^ 廃棄食品横流しのダイコー、許可取り消し 愛知県:朝日新聞デジタル
- ^ 【廃棄カツ3人逮捕】2年前から横流し 60万枚処理受託、常態化か(1/2ページ) - 産経WEST
- ^ 【廃棄カツ横流し事件】産廃業者ら3人、詐欺容疑で再逮捕 - 産経WEST
- ^ 冷凍カツ横流し、ダイコー会長を再逮捕 詐欺などの疑い:朝日新聞デジタル
- ^ ココイチ廃棄委託のカツ横流し、ダイコー会長に有罪判決 名古屋地裁「消費者の信頼ないがしろに」(1/2ページ) - 産経WEST
- ^ 【廃棄カツ横流し】廃棄カツ販売し、みのりフーズ元経営者に有罪判決 名古屋地裁 - 産経WEST
- ^ 【廃棄カツ横流し】食品販売会社元幹部に有罪判決「社会に与えた影響大きい」 名古屋地裁 - 産経WEST
- ^ ダイコー「破格の安値」で廃棄受注 5年前から横流しか:朝日新聞デジタル
- ^ 【廃棄カツ横流し】壱番屋、賠償求め産廃業者「ダイコー」提訴へ - 産経WEST