【継続更新中】新たな金融リーク事件「パラダイス文書」パナマ文書はタックス・ヘイブン問題の氷山の一角に過ぎなかった


概要

タックス・ヘイブンを利用して租税回避、マネーロンダリングを行った政治家を含む著名人の実体が明らかとなった「パナマ文書」公開から1年半。今度はイギリス領バミューダ諸島にある法律事務所やシンガポールの法人設立サービス会社等からもたらされた内部文書が再び南ドイツ新聞、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって「THE PARADAISE PAPERS(パラダイス文書)」として公開されました。

分野金融リークハッキング
関係者南ドイツ新聞, ICIJ, アップルビー, アジアシティ
公開日2017年11月5日
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用語解説

パラダイス文書

バミューダ諸島の法律事務所アップルビーやシンガポールの法人設立サービス会社アジアシティ等から流出したタックス・ヘイブンに関する内部文書。パナマ文書同様に、世界中の政治家やその類縁社、富裕層、企業の名前が連なっていました。特にパナマ文書に比べてアメリカの関係者が多く掲載されています。

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)

ジャーナリスト、コンピュータの専門家、公文書分析家、弁護士などからなる国際的な調査報道機関[1]。パナマ文書に続いて、南ドイツ新聞を経由してもたらされた内部文書を分析し、パラダイス文書として公開しました。

アップルビー(Appleby)

イギリス領バミューダ諸島・ハミルトンの大手法律事務所。バミューダ諸島やケイマン諸島を中心に世界10ヶ所に拠点を構え、年間1億ドルの収益を上げています[2]。今回何らかの手段で内部文書が流出し、相当お冠です。

タックス・ヘイブン

企業収益に対して、無税もしくは低減率の優遇措置を設けている国または地域。そのため、租税回避や資金洗浄のためにペーパーカンパニーが多く作られます。
タックス・ヘイブンと聞くと何となく南の島をイメージしがちですが、企業誘致の為に税優遇措置を設けていれば広い意味でタックス・ヘイブンと言えるので、世界中にあることになります。詳しくはこちらで。

オフショア

オフショア(Offshore)とは直訳すると「海岸線の外側」、つまり海外(特に人件費の安い新興国や発展途上国、税率の低いタックス・ヘイブン)の企業や子会社に自社の業務を委託・移管することを言います。日本の企業がコールセンターを人件費の安い中国に置くこともオフショアとなります。
問題は、タックス・ヘイブンに所有者不明のペーパーカンパニーが多数存在し、それが様々な不正行為に関わっていることにあります。

はじめに

バミューダと言えばバミューダトライアングルにバミューダパンツ。そしてタックス・ヘイブン。この地にある大手法律事務所アップルビーから大量の内部文書がハッキングにより流出し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)らによって世界同時に公開されました。
本記事では、現状公開されている内容を元に一連の流れをまとめています。

事件の沿革

2016年リーク

バミューダ諸島の大手法律事務所アップルビー等から流出した内部データを南ドイツ新聞にリーク

時期や入手経路は明らかにされていませんが、パナマ文書公開の発端となった南ドイツ新聞社にアップルビー法律事務所(バミューダ諸島・ハミルトン)、アジアシティ法人設立サービス会社(シンガポール)、その他バハマ、マルタなど19の国・地域から流出した内部データがリークされました[2]
流出した内部データの内訳は

  • アップルビー法律事務所(バミューダ諸島・ハミルトン)の内部文書683万件
  • アジアシティ法人設立サービス会社(シンガポール)の内部文書56万6000件
  • その他バハマ、マルタなど19の国・地域の登記文書604万件

で、総計1340万件(データ容量1.4テラバイト)にも上りました。

2017年10月10日直接取材

ICIJはアップルビーに直接取材を試みるも応対されず

世界各国のメディア連合となるICIJ取材陣は(日本からは朝日新聞とNHKが参加)、ハミルトンの法律事務所アップルビーに直接取材を試みましたが、「担当者不在」として受け入れられませんでした[3]
2017年10月27日~反論

アップルビーは今回の内部データ流出はハッキングによるものであると声明を発表

アップルビーは今回流出した内部データはハッキングにより違法にICIJに渡ったものであり、タックス・ヘイブンを利用した違法行為を容認も不正もしていないとホームページ上で反論しました[2]

Appleby | Media coverage of the offshore sector

Appleby has recently received enquiries from the International Consortium of Investigative Journalists ( ICIJ) and a number of media organisations who are partners of the ICIJ. These enquiries have arisen from documents that journalists claim to have seen and involve allegations made against our business and the business conducted by some of our clients.

2017年11月5日(現地時間)世界同時公開

「パラダイス文書」が世界同時公開

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と提携メディアは、バミューダ諸島(イギリス領)などのタックス・ヘイブンに設立された法人の実体を「パラダイス文書」として世界同時に報道を始めました[4]
ICIJはそれらの法人と関係者をデータベースとして公開し、その中には政治家やその類縁者、企業、著名人が含まれています。

日本では、朝日新聞が特設サイト『疑惑の島「パラダイス文書」:朝日新聞デジタル』として公開しました。

タックス・ヘイブンの問題

タックス・ヘイブンの主な問題点は以下の通りです。

  • 高額所得者や大企業による脱税・租税回避
  • マネーロンダリング(資金洗浄)、テロ組織など反社会勢力への関与
  • 巨額投機マネーによる世界経済の大規模な破壊

一番の問題点は、高所得者らが正しい納税を回避することで富の再分配が行われず、貧富の格差が拡大することにあります。


タックス・ヘイブンの特徴や問題点については「パナマ文書とは何か?」に詳しく掲載しておりますので、そちらをご確認下さい。

パナマ文書とは何か? -タックス・ヘイブンの実体からピューリッツァー賞受賞まで

2016年4月、タックス・ヘイブンを利用して適切な納税を行っていなかったと疑われる政治家やその関係者、さらには著名人、資産家の名前が「パナマ文書」として世界中に公開されました。これは、パナマの法律事務所の内部データが匿名の人物からリークされたことがきっかけでした。本件を調査分析し、公開した国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)には、報道分野においてアメリカで最も権威のあるピューリッツァー賞が贈られました。…

パラダイス文書の内容

パラダイス文書の内容は、ICIJが運営しているオフショア・リークデータベースで公開されました。
報道では、「パラダイス文書に掲載されている各国の政治家・君主らの名前は、47カ国127人」とありますので、今後追加公開されていくと思われます[7]

パラダイス文書に掲載された世界の指導者、政治家、その親戚や同僚

国名名前(肩書/続柄)
ブラジルブライロ・マジ農業大臣
アメリカウェスレイ・クラーク米国民主党大統領候補
ウガンダサム・クテサ外務大臣
オーストリアアルフレート・グーゼンバウアー元首相
サウジアラビアハーリド・ビン・スルタン元防衛大臣
モンテネグロアナ・コロラヴィッチ元リーダーの妹
イラクムダールガッサンショーカット元議会議員
ウクライナアントン・プリゴスキー元議会議員
ケニアサリー・コスゲイ元農業大臣
カザフスタンムフタール・アブラザフ元エネルギー・貿易相
カザフスタンサウラート・ムカメット・ベイウィッチ・ミンバエフ元石油相
メキシコアレハンドロ・ガルツ・マネロ元国家安全保障担当
ガーナジョン・ドラマニ・マハマ元大統領の弟
インドネシアスハルト元大統領の子供
コスタリカホセ・マリア・フィゲラス前大統領、世界経済フォーラム前取締役兼CEO
カナダジャン・クレティエン前首相
カナダポール・マーティン前首相
カナダブライアン・マルルーニー前首相
日本鳩山由紀夫前首相
パキスタンショーカット・アジーズ前首相
アメリカペニー・プリッツカー元商務長官
イギリスジェームズ・サスーン元財務商務長官
エルサルバドルカルロス・キンタニッラシュミット元副社長
リトアニアアンタナスグーガ欧州議会議員
インドラヴィンドラ・キショア・シンハ国会議員
インドジャヤント・シンハ民間航空大臣
カザフスタンベイブット・アタムクロフ防衛航空宇宙産業大臣
ブラジルヘンリク・デ・カンポス・メイレレス財務大臣
ザンビアハカインデ・サミー・ヒチレマ野党代表
インドネシアプラボウォ・スビアント野党党首
ナイジェリアブコラ・サラキ上院議長
シリアバッシャール・アル=アサド大統領のいとこ
コロンビアフアン・マヌエル・サントス大統領
リベリアエレン・ジョンソン・サーリーフ大統領
トルコビナリ・ユルドゥルム首相の息子
ヨルダンヌール・アル=フセイン女王
イギリスエリザベス2世女王
アメリカウィルバー・ロス商務長官
アメリカレックス・ティラーソン国務長官
ウクライナヴァレリー・ヴシュシェフスキー副首相

※ まだ全ての名前が公開されているわけではないようです。

世界の影響

アメリカ

トランプ政権のロス商務長官の関連企業が経済制裁対象のロシア企業と取引

トランプ政権の閣僚ウィルバー・ロス商務長官のグループ会社がタックス・ヘイブンで60以上あり、中でもマーシャル諸島で設立された海運会社はアメリカの制裁対象となっているロシアのガス・石油会社との取引があることがわかりました[8][9]
カナダ

カナダのトルドー首相の友人がケイマン諸島の信託会社に資金移動

カナダのジャスティン・トルドー首相の政治活動を支援してきた友人の投資家が、巨額の資金をケイマン諸島に移して運用していたことがわかりました。
トルドー首相はパナマ文書報道の際には「税の公平負担」を強く主張し、税逃れ対策に3億ドル以上の追加予算を追加すると表明していましたが、その腹心にタックス・ヘイブンを利用した租税回避の疑いが浮上しました[10]
イギリス

エリザベス2世がケイマン諸島のファンドに投資

イギリスのエリザベス2世はイギリス領ケイマン諸島にあるファンドに個人資産750万ドル(約8億6千万円)を投資し運用していたことがわかりました。このファンドを通じて投資されていた会社は不当な販売方法で議会、市民団体から批判を受けている会社を支配下に置いていました[11]
ローマ・カトリック教会

メキシコ出身の聖職者にマネーロンダリングへの関与示唆

ローマ・カトリック教会のマルシアル・マシエル神父(メキシコ出身、既に逝去)がバミューダ諸島に会社を所有しており、教会の資産運用団体がマネーロンダリングなどの不正に長年関わってきたと指摘されています[11]
ヨルダン

ヨルダン前国王の妻ヌール王妃がジャージー島の信託会社から利益

ヨルダンの前国王の妻、ヌール王妃が、イギリス王室領ジャージー島にある2つの信託会社から利益を得ていたことがわかりました。そのうちの1社は2015年時点で4000万ドル(約45億円)の価値があり、収入はヌール王妃に支払われる予定でした。
リベリア

ノーベル平和賞受賞者サーリーフ大統領がバミューダ諸島の企業役員に登録

2011年にノーベル平和賞を受賞したリベリアのサーリーフ大統領が2001~12年までバミューダ諸島の企業の役員として登録されていたことがわかりました[9]
アメリカ企業

アップルが海外所得の大半をタックス・ヘイブンに移動

アメリカのアップル社は2013年に行き過ぎた租税回避に対して指摘された際「適正に納税している」と述べた後に、アメリカ国外で得た所得の大半をタックス・ヘイブンであるチャネル諸島のジャージー島に移していたことがわかりました[12]
アメリカ企業

ナイキがオランダでバミューダ諸島の子会社に資金を移し税逃れ

アメリカの大手スポーツ用品メーカーナイキが、オランダ当局と合意を結び、バミューダ諸島の子会社に一時約66億ドルの利益を移し、租税回避をしていたことがわかりました[13]
2017年11月10日大手音楽グループの傘下企業

ジャージー島設立のファンドが2万6千曲以上の音楽使用料を租税回避

大手音楽グループの傘下企業ファーストステートメディア社がイギリス王室領ジャージー島に設立したファンドにカーペンターズやボブ・マーリーなど1940年代以降のジャズやR&B、ロックなど2万6千曲以上の著作権を保有させ、音楽使用料を租税回避していたことがパラダイス文書を元にしたICIJの調査でわかりました[15][16]

日本での影響

現在わかっているパラダイス文書に掲載されている日本の政治家、企業についての内容とコメントをまとめています。

日本の政治家

名前内容・利用目的コメント
鳩山由紀(夫元首相)バミューダに設立された石油・ガス会社「ホイフーエナジー」(香港拠点)の名誉会長に就任
顧問料を取得
「名前だけでも連ねてほしいと言われた。実質は何の意味もない。鳩山の名前で信頼を得たいと思ったのでは」
顧問料の金額は明かさず
内藤正光氏(旧民主党元参院議員, 元総務副大臣)ケイマン諸島のファンドに10万ユーロを投資するも、資産公開では記載無し「議員は将来が不安な中、海外の商品がいいと紹介された。タックスヘイブンとは知らなかった。何ら違法なことはしていない」
資産公開については「失念していた」
山田太郎(旧みんなの党元参院議員)議員になる前に経営していたIT企業がケイマン諸島の会社を買収「中国でシステム開発会社を買収したら、たまたまケイマンの会社だった」
鳩山元首相、石油・ガス会社から顧問料 パラダイス文書:朝日新聞デジタル』より

日本の企業

企業名内容・利用目的コメント
住友商事中東で発電を手がけるケイマンの事業体に出資「途中から権益を取得した案件で、もともとケイマンを使っていたスキームを引き継いだ」
「受け取った配当は日本のタックスヘイブン税制に基づいて納税している」
丸紅IHIの航空機エンジン開発プロジェクトでケイマンに設立した特別目的会社(SPC)を利用
為替リスクの軽減
「所得はタックスヘイブン税制で納税している」
東京電力東電と丸紅が出資してフィリピンに設立した電力事業会社が不採算部門などを集約目的でバミューダ諸島に2社を保有。「2社ともに10年までに清算済み。組織再編や清算は各国の法制度に従い適切に実施している」
商船三井ノルウェーの海運会社と共同で液化天然ガス(LNG)輸送船を所有するための特別目的会社(SPC)をケイマン諸島に設立「日本の税法に基づいて適切に税務申告している」
IHI丸紅がケイマン諸島に設立した特定目的会社(SPC)を通じて航空機エンジン開発への投資「個別の契約の詳細は申し上げられないが、違法性はない」
KDDI香港の子会社の元役員らがバミューダ諸島に設立した法人を使い中国企業との架空取引を行った疑い架空取引に対して「実態が確認できなかった」
元役員らの不正行為には「事情を聴くことができず明らかになっていない」
パラダイス文書に日本企業も 丸紅や商船三井  :日本経済新聞』、『【タックスヘイブン】香港のKDDI子会社で架空取引 社内会議で発覚阻止策か 「パラダイス文書」などで判明 - 産経ニュース』より

編集後記

パナマ文書が公開されて1年半。恐らくパラダイス文書の元となった内部文書がリークされたのは、パナマ文書が公開されたことが発端となったことでしょう。パナマ文書が公開された際には、情報提供者について身元は隠してはいましたが、リーク時の状況を詳しく公開してしまったため、法律事務所の職員が容疑者として逮捕された経緯もあり(南ドイツ新聞社はこの容疑者を否定しています)、今回は非常に慎重になっているようです。
パラダイス文書はパナマ文書に比べても関わっている日本人が多いとのことですので、これから少しずつ情報が出てくることになるでしょう。

脚注


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