2016年10月3日

大隅良典博士によるオートファジーの仕組みの発見 -細胞の中で行われる“ゴミ”のリサイクル


概要

2016年のノーベル生理学・医学賞は「オートファジーの仕組みの発見」の業績で大隅良典博士(東京工業大学栄誉教授)に贈られました。
ここでは、オートファジーの役割や仕組み、大隅博士による発見の歴史をまとめています。

分野 ノーベル賞, 分子生物学
発見者 大隅良典
提言者 クリスチャン・ド・デューブ
発表日 1992年10月
目次 [表示 / 非表示]

用語解説

大隅良典

歴史的に停滞していたオートファジーの研究を酵母を使って一躍世に知らしめた立役者。2016年、その成果を認められ、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

出芽酵母(酵母)

学名Saccharomyces cerevisiae。単細胞の真菌類で本編の主人公的存在。小さなリソソームの代わりに大きな液胞を使って、オートファジー現象を観察することが出来ます。遺伝子変異も容易でゲノム解析も終わっているため遺伝子工学の研究に非常に重宝されています。
酵母に感謝の意を表明されたい際は、京都市にあります「菌塚」の参拝をお薦めいたします。

リソソーム

内部にタンパク質を分解するための加水分解酵素が多く含む細胞小器官。普段は膜構造で包まれているため細胞の中には漏れ出ないようになっています。では、どうやってその分解酵素を利用しているのか?それが今回のキーポイントです。
動植物細胞の両方に含まれますが、植物細胞や酵母では液胞が大きく発達してその役割を代替しています。

タンパク質とアミノ酸

ヒトの体には20,000種以上のタンパク質が存在していますが、それらは全て20種類のアミノ酸の組み合わせによって作られています。
体重70kgのヒトはだいたい1日約70gのタンパク質を摂取してアミノ酸に分解し、それぞれに適したタンパク質を新しく合成していますが、その量は約200gで130g分不足しています。ではその原材料となるアミノ酸はどこから?これも今回のキーポイントです。

ノーベル生理学・医学賞

ノーベル賞6部門のうちの一つで「生理学および医学の分野で最も重要な発見を行った」人物に与えられます[1]
昨今、日本人はノーベル賞受賞について騒ぎすぎだというコメントも見受けられますが、受賞ニュースをきっかけにサイエンス研究の面白さ、基礎研究の大切さが多くの人に伝わるのですからやはりそれは喜ばしいことです。

はじめに

オートファジー(ギリシャ語で「Auto:自己」を「Phagy:食べる」)は、細胞内で不要になったタンパク質や劣化した細胞小器官をリソソームや液胞内の加水分解酵素でアミノ酸にまで消化・分解して新たな合成の材料とする仕組みです。
1963年にクリスチャン・ド・デューブ(1974年ノーベル生理学・医学賞受賞)は、細胞内でリソソームが細胞質内のタンパク質を分解する現象を発見しましたが、その詳細は不明なままでした。しかし、1992年に大隅良典博士によって解明され、その後オートファジーの研究は飛躍的に進展して行きました。

オートファジーの役割

  • 劣化した細胞小器官や合成に失敗したタンパク質の除去

    細胞内の劣化した細胞小器官や合成の途中で失敗したタンパク質といった「ゴミ」を処理して清潔に保ちます。

  • 飢餓状態を耐え凌ぐ

    細胞が飢餓状態に陥ると、近々には必要ではないタンパク質を分解して飢餓時に必要なタンパク質を新しく合成します。

  • 分化した細胞に適したタンパク質合成

    生物は1つの受精卵が様々な細胞に分化して成長します。その際に必要なタンパク質はそれぞれ異なるため、都度不要になったタンパク質を分解して必要なタンパク質を合成します。

オートファジーの種類

マクロオートファジー

詳細は後述。通常、オートファジーと言えばマクロオートファジーのことを指します。

ミクロオートファジー

リソソームや液胞の内膜が陥入して細胞質成分を取り込んで分解されます。

シャペロン介在性オートファジー

シャペロン分子を介してリソソーム膜上に運ばれたタンパク質が解きほぐされてトランスポーター(アミノ酸やイオンなどの小分子が行き来するトンネル)を介してリソソーム内に取り込まれて分解されます。

オートファジーの仕組み

ここでは、動物細胞が栄養飢餓状態に陥った際の(マクロ)オートファジーを例にとって説明しています。

オートファジーの開始

栄養飢餓時にファゴフォア(隔離膜)が生成

細胞が栄養飢餓状態に陥ると、近々には必要ではないタンパク質を分解して、飢餓状態を乗り切るために必要なタンパク質を合成する必要があります。
そこで、細胞質内にタンパク質と脂質からなる2重膜の袋構造(ファゴフォア隔離膜)が作られます。
オートファゴソームの形成

ファゴフォア(隔離膜)がタンパク質を捕獲

ファゴフォア(隔離膜)が湾曲しながら伸長して、細胞質内の不要なタンパク質を包み込んで捕獲し、球体(オートファゴソーム)になります。
オートリソソームの形成

オートファゴソームとリソソームが融合

オートファゴソームは、微小管に沿って中心体近くに輸送され、加水分解酵素を蓄えたリソソームと膜同士が融合してオートリソソームを形成します。
消化・分解

オートリソソーム内でタンパク質分解

リソソームの加水分解酵素によって、取り囲んだタンパク質がアミノ酸に分解されます。
リサイクル

アミノ酸が細胞質に放出

分解されたアミノ酸はオートリソソーム内膜のトランスポーターを経由して細胞質内に戻されます。
その後、放出されたアミノ酸を材料に新しいタンパク質を合成します。

オートファジー発見の歴史

1953年~1955年鍵となる細胞小器官

クリスチャン・ド・デューブがリソソームを発見

クリスチャン・ド・デューブは、多様な加水分解酵素を含んだ細胞小器官としてリソソームを発見しました。

1974年、ド・デューブはこの発見により同僚2人と共にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

1963年オートファジーの発見

ド・デューブが細胞内の消化分解システムを発見

その後、ド・デューブは細胞内で

  • ミトコンドリアや小胞体、リボソームなどを含んだ小胞
  • 内容物がリソソームの加水分解酵素で分解されつつある小胞

が電子顕微鏡で観察されました。
これらのことから、ド・デューブは細胞小器官や細胞質が小胞に取り囲まれた後にリソソームと融合して分解・リサイクルされると考え、この過程をオートファジー、その小胞をオートファゴソームと命名しました。

しかし、オートファジーの研究はその事象を反証する研究発表や別の細胞内タンパク質分解システムの解明、観察方法が電子顕微鏡に限られるなどの制約もあってなかなか進展しませんでした
発想のきっかけ

大隅良典博士が酵母の液胞に着目

酵母の液胞について研究をしていた大隅良典博士は、酵母をタンパク質合成の際に必要となる窒素を含まない培養液で培養(栄養飢餓状態)すると、液胞の加水分解酵素の活性が誘導されることをヒントに、栄養飢餓状態では細胞内で何らかの分解反応が起きているのではないかと考えました。
1992年オートファジーの確認

加水分解酵素欠損酵母でオートファジーの現象を確認

大隅博士は、液胞内に加水分解酵素を持たない酵母の変異株を栄養飢餓状態に置くと、液胞内に通常では分解されて見えない小胞(オートファジックボディー)が観察されることを発見しました。さらに電子顕微鏡で詳しく調べてみると、それは細胞質の成分を含んだ膜構造体であることがわかりました。
大隅博士はこの結果を1992年に論文で発表しました。

この論文は後にノーベル生理学・医学賞の受賞理由で「オートファジー研究に大きなブレークスルーをもたらした」と紹介されました。

1993年遺伝子同定

オートファジーの原因となる遺伝子を発見

次に大隅博士は、加水分解酵素を欠いた酵母株に人為的な突然変異を誘発(ランダムに遺伝子を破壊)して、同様に栄養飢餓状態で培養・観察し、オートファジックボディーが液胞に蓄積されない(=オートファジー現象が起きていない)株を単離しました。これはapg1変異株と名付けられ、関連する遺伝子をAPG1遺伝子と命名しました。
その後の研究で、オートファジーに必須な計14個の遺伝子を同定し、1993年に論文で発表しました。

さらにその後の研究で、30を超える遺伝子が確認され、他関連遺伝子を含めてATGと改名されました。

その後、酵母を用いたオートファジーの研究が飛躍的に進みますが、これは

  • 分子生物学の技術向上により、ゲノム解析が進歩(酵母のゲノム解析は1997年に完了)
  • 動物細胞のオートファジーは非常に微小であるため、電子顕微鏡でしかとらえることができないのに対し、酵母のオートファジーは変異株を用いれば光学顕微鏡で容易に観察することが出来た
  • 酵母によるオートファジーの仕組みや関連する遺伝子は、ヒトなどの他の生物とほぼ変わらなかった

によるものです。

オートファジーの研究者

日本国内でオートファジーについて研究をしている研究者一覧です。

編集後記

今回は、2016年にノーベル生理学・医学賞受賞となった大隅博士のオートファジー研究についてまとめました。細胞内を清潔に保ち、必要なタイミングで必要なタンパク質を合成するこの仕組は、ヒトの医療にも活かされており、神経細胞の異常によるパーキンソン病の原因解明の研究にも応用されています。
オートファジーに限らず生物学の教科書ではさらっと1ページにも満たない程度にまとめられている項目のその一つ一つに、研究者たちの飽くなき挑戦や葛藤、成果が込められていることを忘れてはなりません。
オートファジーについてより深く知りたい方は、是非参考書籍などをご参考下さい。

参考

細胞が自分を食べるオートファジーの謎

形式新書
著者水島昇
出版日2011年11月18日
出版社PHP研究所
価格864円

購入先

私たちの体を構成する細胞の中で、日々、劇的な変化、大規模な「リサイクル」が起きていることが分かった! からだをつくるタンパク質で言えば、食事を通して摂取する実に3倍もの量のタンパク質を毎日、分解しては、また新しく合成していたのである。細胞が自分を食べる オートファジーの謎 | 水島昇著 | 書籍 | PHP研究所

祝!ノーベル賞 大隅良典さん “オートファジー”徹底解説!|NHK「サイエンスZERO」

形式テレビ番組
出演者大隅良典
放送日2016年10月9日
放送局NHK

視聴先

ノーベル医学・生理学賞を、東京工業大学栄誉教授の大隅良典さんが受賞することが決定! 細胞内で不要なたんぱく質を分解、リサイクルする「オートファジー」の仕組みを解明したことが世界的に評価された。細胞の「自食作用」とも呼ばれるこのメカニズムは、生命活動を支える最も基礎となる仕組み。最近、パーキンソン病などの神経疾患とも関係があることが明らかになってきた。去年9月に放送した大隅さん出演のZEROを再編集。オートファジーとは何か。その後の研究にどのように影響を与えたのか。徹底解説する!2016年10月9日の放送|NHK「サイエンスZERO」


引用

こちらもおススメです

コメント

あなたのメールアドレスは公開されません。