2016年11月30日

113番元素「ニホニウム(Nh)」の発見 -17年間諦めず成功を信じ続けた信念が産んだ快挙


概要

2016年11月30日、理化学研究所の森田ら研究グループが合成に成功した113番元素の名称が「nihonium(ニホニウム, Nh)」に決定しました。この日本発、アジア初の快挙についてまとめました。

発見者 森田浩介ら研究グループ
命名日 2016年11月30日
実験施設 理化学研究所仁科加速器研究センター
目次 [表示 / 非表示]

用語解説

森田浩介

実験核物理学を専門とする物理学者[1]。理化学研究所仁科センターの研究グループリーダーとして113番元素の合成に成功し、「ニホニウム」と命名しました。

ニホニウム

原子番号113番の自然状態には存在しない超ウラン元素のひとつ。森田ら研究グループによって、亜鉛とビスマスから合成されました。

線形加速器ライラック(RILAC)と気体充填型反跳分離器(GARIS)

理化学研究所仁科加速器研究センターに敷設されている線形加速器。ECRイオン源がら多価イオンを発射して直線的に加速し、標的に衝突させることが出来ます。
GARISでは衝突した結果生じた生成物の電荷を整えて、検出部に誘導します。

基礎研究

直接的、直近では商業的な利益を生み出すことを意図しない、物事の基本原理の理解を追究するための研究[2]。商業的な利益を求めない研究は大切ですが、「それが何の役に立つの?」という質問に対しては真摯に応対する必要はあります。

はじめに

元素は現在118種類まで知られていますが、その内原子番号93以降の元素は半減期が地球誕生からこれまでの期間よりかなり短いため、自然状態では既に地球上から消滅しています。そのため、その存在を証明するためには人工的に作り出す(元素同士を衝突させて核融合を起こす)必要がありました[3]
そして合成に成功し、存在を正しく証明することが出来ると、新元素の命名権が与えられることになります。

※ 半減期:崩壊して他の元素に変化するまでの期間[4]

ニホニウムの材料

亜鉛とビスマス

原子番号113番のニホニウムでは、亜鉛(Zn; 原子番号30)とビスマス(Bi; 原子番号83)を人工的に衝突させて合成します。

113番元素は中性子が少ないと不安定になるため、亜鉛は中性子の多い亜鉛70を使用しています(数千万円/gします)。
原子核同士の衝突時の反発力は掛け算に比例するため、その掛け合わせの中で最も安定した組み合わせが亜鉛とビスマスになりました。

ニホニウムの合成

亜鉛発射

18-GHz ECRイオン源(ECRIS)から亜鉛ビームを発射

18-GHz ECRイオン源(ECRIS)内で亜鉛はECRプラズマと衝突して、複数個の電子がはじき出されて+に帯電した状態で加速器内に1秒間に2.4兆個の割合で発射されます。
速度調整

加速器内で最適な速度に調整

加速器の中には「+」と「-」が交互に切り替わる高周波の電気が流れるチューブがあり、+に帯電した亜鉛は、まず-に引き寄せられ(引力)、次に+に反発して押し出されます(斥力)。
こうして亜鉛は、ビスマスと衝突して融合するために最適な速度(光速の10%程度の速度)に調整されます。

速度が遅すぎると両者が反発してうまく融合せず、速過ぎると分裂するため、正確な速度調整が必要になります。

元素合成

亜鉛がビスマスに衝突して核融合反応

回転する円盤に取り付けたビスマス薄膜に亜鉛が衝突すると、1000兆分の1の確率で核融合が起こり、ニホニウムが合成されます。

※ 衝突時のエネルギーが強力でビスマス薄膜に穴を開けてしまうため、同じ箇所に当たらないように回転させています。

誘導

気体充填型反跳分離器(GARIS)でニホニウムを検知器に誘導

ヘリウムを充填した気体充填型反跳分離器(GARIS)内で、磁力で合成したニホニウムとそれ以外を電荷・質量差で選別し、ニホニウムだけを検出器に誘導します。

融合時のニホニウムの荷電は不定であるため、充填したヘリウムと電子のやり取りが行われ、ニホニウムは平均+12の荷電状態となり、それだけを的確に選別して検出器に送ります。

α崩壊観測

α崩壊を観測してニホニウムを確認

検出器内のニホニウムは、瞬時に複数回のα崩壊(陽子2つ、中性子2つからなるα粒子を放出して、原子番号と中性子が2つ減る[5])を起こします。この回数と時間、放出エネルギーを解析し、既知の崩壊元素から逆算的に目的とする合成元素を確認します。
ニホニウムでは2012年9月27日に3個目の合成成功の際、6回のα崩壊を経て原子番号101のメンデレビウムを検出しています。
3DCG動画

亜鉛とビスマスが衝突してニホニウム合成後の崩壊経路までの様子

ニホニウム発見の歴史

1987年準備実験
前年開発したGARISを用いて超重元素探索の準備実験を開始しました。

※超重元素:原子番号104番のラザホージウム(Rf)以降の重い元素

2001年研究開始

超重元素探索実験が本格的に開始

森田ら研究グループは、サイクロトロン、RILACとGARISを組み合わせて、本格的に超重元素を合成する実験を開始しました。
予備実験

既知の原子番号108、110、111番元素の合成に成功

実験開始当時、107番~112番までの元素はドイツ重イオン科学研究所(GSI)によって合成されていたため、これらの合成をRILACとGARISによって追試したところ、難なく成功しました。
2003年9月5日~本実験開始

113番元素の合成実験開始するも失敗

GSIが113番元素の合成実験に着工したことから、112番元素合成の実験を取りやめ、急ぎ森田らも113番合成実験を開始しましたが、この時はGSI共々成功には至りませんでした。
2004年4月112番合成成功

中断していた112番元素の合成に成功

森田らは、GSIが4年かけて2個の合成に成功した112番元素を約1ヶ月で2個の合成に成功し、技術力の高さを確信しました。
2004年7月23日1個目の合成成功

初めて113番元素の合成に成功

森田らは、80日間亜鉛を発射し続けたこの日、α崩壊を4回起こして最終的に原子番号105のドブニウム自発核分裂を起こすまでの崩壊経路を検出し、初めて113番元素の合成に成功しました。
2004年2月ライバル登場

米ロの共同研究チームが113番元素合成を発表

2003年8月、ロシアのドゥブナ合同原子核研究所とアメリカのローレンス・リバモア国立研究所による合同研究チームが原子番号95のアメリシウム20のカルシウムから115番元素合成に成功し、翌2004年2月、そのα崩壊の過程で0.48秒間、113番元素を観測したと発表しましたが、当時は命名権は得られませんでした
2005年4月2日2個目の合成成功

2個目の113番元素の合成に成功

森田らは、さらに100日間亜鉛を発射し続けて、1個目と同様に113番元素の合成に成功しました。
2006年申請棄却

113番元素の優先権は与えられず

国際純正・応用化学連合(IUPAC)国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)合同作業部会(JWP)に113番元素合成を報告しましたが、

  • 原子番号107のボーリウムへの崩壊確認を合成の根拠としたが、ボーリウムはこれまで1例しか報告が無いため既知の原子核とは言えない
  • 原子番号105のドブニウムは67%の確率でα崩壊を起こすが、報告の2個は共に確率の低い自発核分裂が起きている

という理由で優先権は認定されませんでした。

※優先権:優先権が認定されることで、新元素への命名権が与えられます。

2006年8月海外勢の成功例

改めて米ロの共同研究チームが113番元素合成を発表

ドゥブナ合同原子核研究所とローレンス・リバモア国立研究所による合同研究チームが、原子番号93のネプツニウム20のカルシウムから113番元素の合成に成功したと発表しました。
2008年~2009年急がば回れ

ボーリウムを既知の原子核として証明

森田らは、113番元素合成の根拠としたボーリウム約20個を自ら合成し、

  • ボーリウムが113番元素で観測されたのと同じ時間をかけて同じエネルギーを放出してα崩壊すること
  • その結果出来たたドブニウムが67%の確率でα崩壊を起こし、33%の確率で自発核分裂すること

を確認して、ボーリウムが既知の原子核であることを証明しました。

2009年海外勢の台頭

米ロの協同研究チームが113、115、117、118番元素合成を発表

ロシアのフレロフ核反応研究所と米アメリカののローレンス・リバモア国立研究所、オークリッジ国立研究所の共同研究グループは、115番(カルシウム+アメリシウム)117番(カルシウム+バークリウム)118番(カルシウム+カリホルニウム)元素を合成し、それらが連鎖崩壊する過程で113番元素発見を主張しました[6]

この実験では、合成例が多いものの、どの実験結果も崩壊後に既知の同位体に至っていないという問題点がありました。

2012年5月再審議

再度追加証明を携えて113番元素の優先権を主張

森田らは、ボーリウムの特性を証明した成果を携えて、改めてJWPに113番元素の優先権認定に名乗りを上げました。
2012年8月12日3個目の合成成功

3個目の113番元素の合成に成功

森田らは、350日間かけて亜鉛を発射して、これまでと異なるドブニウムがα崩壊して原子番号103のローレンシウム原子番号101のメンデレビウムに至る崩壊経路を検出し、113番元素の合成に成功しました。
新たなる証明

再々度追加証明をJWPに提出

既に審議は行われていましたが、森田らは3個目の合成証拠を提出して優先権を主張しました。
2012年9月25日記者会見

プレスリリース記者会見

理化学研究所は3個目の113番元素の合成成功を受けて記者会見を開きました。
2015年12月31日命名権認定

IUPACが113番元素の発見を認定

IUPACは理化学研究所の森田ら研究グループに正式に元素番号113番の新元素の優先権が認定しました。これは、これまで新元素の合成に成功していたアメリカ、ロシア、ドイツ以外で初めての快挙となりました。
2016年3月18日新元素名提案

113番元素の名称として「nihonium(ニホニウム, Nh)」を提案

森田らは発見した113番元素の名称として、

  • 日本発であることの強調
  • 応援してくれた日本への感謝

から、「nihon(ニホン)」と語尾に元素名の国際規則の「-ium(イウム)」を組み合わせて、「nihonium(ニホニウム)」、元素記号案は「Nh」と提案しました
[7]

有力候補として挙げられていた「ジャポニウム」は、日本人の蔑称とされる「ジャップ」を連想させるため外されました[8]

2016年6月8日新元素名案発表

IUPACは113番を含め、115、117、118番元素の名称案を発表

113番元素の名称案は、「nihonium(Nh, ニホニウム)」と発表されました。この時、米ロの協同研究チームが合成に成功した115、117、118番元素の名称案も発表されました。
2016年11月30日正式決定

113番元素の名称としてニホニウムが正式決定

IUPACは、113番元素の名称を日本側の提案通り「nihonium(Nh, ニホニウム)」と決定したことを発表しました。

理化学研究所の研究者

日本国内で理化学研究所で研究をしている研究者一覧です。

編集後記

新元素が発見され、名前を付けることが出来た事自体は特段我々の生活に何ら影響を与えることはありません。しかし、こういった基礎研究の積み重ね(基本的理論の証明、周辺設備への投資、知財の蓄積)は必ず将来の役に立つことになります。もしかすると、今後は10オーダーで簡単に新元素が見つかる(合成される)時代が訪れるかもしれません。しかし、それも今の基礎研究あってのことです。実際、この技術は医療診断への貢献も約束されています。
森田さんらは、今119番以降の新元素の探索を開始しています。その中には量子力学的に半減期が突然長くなる「安定の島」なる元素があるそうです。もちろんそれは非常に困難な挑戦ですし、欧米との競争も避けては通れません。まずは第一歩119番元素合成成功の一報を期待しております。

参考

祝!命名権獲得 113番元素はこうして作られた|NHK「サイエンスZERO」

形式テレビ番組
出演者森田浩介
放送日2016年3月13日
放送局NHK

視聴先

去年の大晦日、科学界にビッグニュースが飛び込んできた。周期表で113番目の元素の命名権が、理化学研究所のグループに贈られたのだ。これはアジア初となる快挙。実は周期表の元素のうち、93番目以降は全て人工的に作られたものだ。これまで新元素を作った国はアメリカ、ロシア、ドイツの3カ国のみだったが、そこに日本が割って入ったのだ。113番元素はどのように誕生したのか。徹底解説する!2016年3月13日の放送|NHK「サイエンスZERO」

理研ニュース 2013年1月号

形式プレスリリース
発行者理化学研究所広報室
公開日2013年1月

ダウンロード先

理研の広報誌(月刊)です。理研で行われている世界最先端の研究成果やプロジェクトの紹介、イベントのお知らせなどを掲載しています。 発行:毎月5日(5日が土・日・祝日の場合は翌営業日。1月号・5月号除く)。『理研ニュース』2013年 | 理化学研究所

物語で学ぶ元素周期表 水兵リーベからニホニウムまで

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著者虹法師
出版社Amazon Services International, Inc.
価格250円

購入先

113番元素の発見認定おめでとうございます。2016年末には、この元素が発見者の理研チームから提案されたニホニウム(略称Nh)という名となることが正式な続きをへて確定しました。2017年以降に印刷される周期表にはニホニウムが掲載されることでしょう。元素周期表と言えば高校生の時、「水兵リーベ僕の船」の語呂合わせで覚えた例の表です。これを機会にもう一度、元素周期表について学んでみませんか。難しい理論の説明は他の書物に譲るとして、この本は楽しく物語で周期表を学ぶことをもくろみ書かれています。 Amazon.co.jp: 物語で学ぶ元素周期表――水兵リーベからニホニウムまで eBook: 虹法師: Kindleストア


引用

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