中国の南シナ海人工島建設問題 -国際法に反しようとも圧倒的な力でねじ伏せる傲慢国家を誰が正すか


概要

2014年、南シナ海の南沙諸島で中国が人工島を建設していることが発覚しました。満潮時には海面下に沈む暗礁域を埋め立ててここに軍事施設を整備して南シナ海の単独支配を着実に進めています。ここ数年で大きく変わったアメリカ、フィリピンの状況も踏まえてまとめました。

  • 南シナ海は戦前から戦略上重要な拠点で日本も含めて占有権を争ったが、戦後は徐々に中国が実効支配を進めている
  • 中国は南シナ海全域の領有権を主張し、暗礁を埋め立てた人工島に軍事施設を建設
  • 仲裁裁判所によって中国の主張は否定されたが、それでも着実に中国の支配は進んでいる
分野領土問題
関係国中国, ベトナム, フィリピン, マレーシア, アメリカ
場所南シナ海
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用語解説

南シナ海と9段線

中国、台湾、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、インドネシアに囲まれた海域で200位上の小さな島、岩、暗礁があります。
中国はここに9本の破線(9段線)を引いて領有権を主張し、沿岸諸国との間で争っています。中国の主張の根拠はまさに「中国2000年の歴史!」にあります。

サラミスライス作戦

敵対する勢力を少しずつ削いでいく作戦[1]。別の言葉で「茹でガエル(カエルを水の中に入れ、徐々に温度を上げても気づかず、やがて茹で上がってしまう状態)」とも。

人工島

中国が南シナ海南沙諸島のサンゴ礁を破壊して暗礁(低潮高地:満潮時には海面下に沈む)を埋め立てて建造した人工的な島。ここに軍事インフラを整備して南シナ海全域の実効支配を進めています。

航行の自由作戦

国際法上、敵意が無ければ他国の領海であっても自由な航行が出来る権利の上で、度を超えた海洋利権を主張していると判断した国に対してアメリカが艦船などを派遣する作戦[2]。当事者国にとっては、最新鋭のアメリカ海軍が目の前を通るだけで相当な警告になります。

ハーグ常設仲裁裁判所

国家・私人・国際機関の間の紛争における仲裁・調停・国際審査を行うためにオランダのハーグに常設された裁判所。判決には法的拘束力があるが、裁判所は執行する権限は持たない[3]

はじめに

南シナ海は中国、台湾、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、インドネシアと多くの沿岸国によって囲まれた海域で、それぞれの国が各々領有権を主張していました。中国は第二次世界大戦後に突如として「歴史的権利」を根拠に9段線を引き、一方的な独占領有権を主張しました。その言葉通り、中国は着実に南シナ海の諸島を強引かつ狡猾に実効支配を進め、今や暗礁を埋め立てて人工島を建設し、ここに軍事施設を整備するまでに至りました。

Point南シナ海の領土争いには戦時中の日本も台湾を足がかりに参加しており、戦略上の重要な拠点であったことが窺えます。

戦後の南シナ海を巡る争いの略歴

1947年11段線

「11段線」で中華民国が南シナ海の領土主張

中華民国(当時の中国、現在の台湾)が「11段線」を引いて、南シナ海のほぼ全域を領海であると主張しました。

1950年代半ば9段線

「9段線」で中国が南シナ海の領土主張

中国(中華人民共和国)も中華民国の主張を引き継ぎ、北ベトナムとの関係に配慮して二本引いた「9段線」をもって領土を主張しました。

1952年4月28日サンフランシスコ講和条約

サンフランシスコ講和条約により日本は西沙諸島に関する権利を放棄

日本は第二次世界大戦終戦に関してサンフランシスコ講和条約を締結し、西沙諸島に関する権利、権原および請求権の放棄を国際社会に向けて明言しました[4]

1954年中国の西沙諸島侵攻

中国が西沙諸島の東半分を占拠

第一次インドシナ戦争終結によりフランス軍撤退後、中国が西沙諸島の東側、アンフィトリテ諸島を占拠しました。

1956年ベトナムの西沙諸島侵攻

南ベトナムが西沙諸島の西半分を占拠

中国に続いて南ベトナムが西沙諸島の西側、西クレスセント諸島を占拠しました。

1956年中華民国の侵攻

中華民国(台湾)がイトゥアバ(太平島)を占拠

中華民国(台湾)は1952年に締結された日華平和条約により日本が南沙諸島の放棄を確認した後、当時フィリピンが硫黄採掘を行っていたイトゥアバ(太平島)を占拠、実効支配しました[5]

1958年9月4日国内法整備

中国が領海宣言

中国は、「領海宣言」において南シナ海の大部分が自国の領海であると宣言しました。

この時、この宣言の中に尖閣諸島については言及されていませんでした[6]

1969年資源争いの発端

南シナ海海底地層に石油が埋蔵されている可能性を発表

国連アジア極東経済委員会(ECAFE)は南シナ海とタイランド湾で海底調査を行い、ブルネイ・サイゴン堆積盆地、メコン堆積盆地などに石油埋没の可能性がある地質構造があることを発表しました。

その後、現在の調査では南シナ海全体の石油埋没量は約110億バレル、天然ガス190兆立法フィートとみられています。

Point南シナ海域に天然資源が埋没していることがわかった後、関係各国の間にこれまでの「領土・領海問題」だけでなく、新しく「資源争い」が加わることになりました。また、同様の調査で、東シナ海にも天然ガス田が見つかっており日中間の新たな対立の火種となっています。
1973年アメリカ撤退

南ベトナムからアメリカ軍撤退

第二次世界大戦後に起きた長引くベトナム戦争からベトナム和平協定を機にアメリカ軍が撤退しました。ベトナム戦争は翌々年1975年に南ベトナムが崩壊して終結しました[7]

1974年1月15日~19日西沙海戦

中国が西沙諸島の戦いで南ベトナムに勝利し、西沙諸島占拠

ベトナム戦争末期にアメリカ軍が南ベトナムから全面撤退した後、中国政府は西沙諸島が自国領であると改めて宣言しました。その後、中国漁船と南ベトナム海軍の駆逐艦の小競り合いから、両国間で本格的な海戦が始まり、結果、ベトナムは破れ中国が西沙諸島全体を手中に納めました[8]

両国の損害
中国側の損害南ベトナム側の損害
艦艇4隻に損傷
85名が死傷
艦艇1隻が沈没、3隻に損傷
100名以上が死傷
1988年3月14日スプラトリー諸島海戦

中国が南沙諸島でベトナムを破り6ヶ所の岩礁を占拠

1987年中国海軍は南沙諸島への侵攻を始め、その後警戒に当たっていたベトナム海軍との間で戦闘が起こり、結果、ベトナムは大敗し中国は以下の南沙諸島6ヶ所の岩礁を占拠しました[9]

  • ジョンソン南礁

  • ファイアリー・クロス礁

  • クアテロン礁

  • ヒューズ礁

  • ガベン礁

  • スビ礁

航空写真でわかるように、全ての岩礁が埋め立てられ人工島が建設されています。

両国の損害
中国側の損害南ベトナム側の損害
1名が負傷艦艇2隻が沈没、1隻に損傷
400名以上が死傷
1988年人工島を軍事基地化

中国が西沙諸島ウッディー島に滑走路建設

中国はこの滑走路を1993年7月に公にしましたが、軍事目的を否定。しかし、前年北京で発行された軍事雑誌では軍事基地である旨記載されていました。

1991年4月~アメリカ軍撤退

フィリピンのルソン島からアメリカ軍基地返還・撤退

アメリカはフィリピンのルソン島にある海外最大規模の米軍基地(クラーク空軍基地、スービック空軍基地)の使用期限延長が認められなかったため、返還・撤退を開始しました。

これにより、南シナ海でのアメリカの影響力が弱まった結果、後の中国の侵攻を許すことになりました。また、フィリピン基地撤退に伴いアジア全域における在日米軍基地の役割がこれまで以上に重くなる結果となりました。

1992年2月25日国内法整備

中国が「中華人民共和国領海及び接続水域法(領海法)」を施行

中国は西沙諸島、南沙諸島などの南シナの4諸島と、台湾の「附属島嶼」として尖閣諸島を中国の領土であると規定した「中華人民共和国領海及び接続水域法(領海法)」を施行しました[10]

尖閣諸島の領土主張に対して当然日本は外務省を通じて抗議しましたが、当時あまり大きく取り上げられなかったようです[11]

1992年7月22日ASEANの動向

ASEAN諸国が「南シナ海に関するASEAN宣言」を発表

南シナ海の領有権問題に対して、中国の「紛争棚上げ、共同開発」の方針を歓迎し、「紛争の平和的解決」や対話の重要性を表明しました[12]

但し、この宣言には法的拘束力はありませんでした。

Point後にわかることですが、中国内部文書には「紛争棚上げ、共同開発」と共に「主権はわが方」という1カ条が加えられており、あくまでも中国が実効支配するまでの時間稼ぎと捉えられています。
1995年フィリピンとの攻防

中国が南沙諸島ミスチーフ礁を占拠

フィリピンの支配下にあった南沙諸島ミスチーフ礁に、モンスーン(季節風)の影響で監視活動を中止していたフィリピン海軍の隙をついて中国が一方的に建造物を構築してそのまま占拠をしました[13]。フィリピンは抗議を行うも圧倒的な軍事力の差の前には為す術がありませんでした。

フィリピンからのアメリカ軍基地の撤退が中国の増長を招いたと言えます。

1998年6月26日国内法整備

中国が「排他的経済水域および大陸棚法」を公布

中国は『中華人民共和国排他的経済水域及び大陸棚法』を公布し、中国の排他的経済水域と大陸棚の基本的法律を確立し、また「本法の規定は中華人民共和国が享有する歴史的権利に影響しない」と明確に規定しました[14]

2002年11月4日ASEANの動向

ASEAN諸国と中国が「南シナ海に関する関係国の行動宣言(DOC)」を発表

領有権をめぐる紛争の平和的解決を目指し、敵対的行動の自制と、軍関係者の相互交流や環境調査協力により信頼醸成を高めていくことを約束しました。しかし、中国の消極的な姿勢やASEAN内の対立もあり、合意に至ったのは信頼醸成を目的とした共同作業に関するガイドラインの策定にとどまりました[12]

2012年4月8日スカボロー礁事件

中国が中沙諸島スカボロー礁を占拠

中国はフィリピンが排他的経済水域としていたスカボロー礁に介入を始め、2012年4月8日に中国の漁船がフィリピン海軍に拿捕されたことを機に両国で睨み合う状況となりました。その後悪天候によってフィリピン軍が一時退避した隙をついて中国側がスカボロー礁を占拠しました[15]

フィリピン側は国際海洋裁判所に判断を仰ぐ提案しましたが、中国側はこれを批判しています。

2012年7月12日平和的解決の道模索

アジア・太平洋地域の安全保障を話し合うASEAN地域フォーラム始まる

アジア・太平洋地域の安全保障を話し合うASEAN地域フォーラムがカンボジアで始まり、アメリカも参加し南シナ海の領有権争いの平和的な解決を話し合われました[16][17]

2012年7月17日強まる実効支配

中国は西沙、南沙、中沙諸島に三沙市を設置を発表

西沙、南沙、中沙諸島を支配下に置いた中国はここに「三沙市」を設置し、西沙諸島のウッディー島に市役所庁舎を建てました[18]

これは先立って開かれたASEAN地域フォーラムを無視したかたちとなりました。

2012年9月3日監視区域の設定

中国が海域動態監視観測管理システムを拡張

中国人民日報は中国が西沙諸島とスカボロー礁、尖閣諸島の周辺海域を人工衛星や航空機で遠隔監視する「海域動態監視観測管理システム」の範囲内に組み込んだと報じました[4]

2013年1月22日仲裁申し立て

フィリピンがオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に仲裁を申し立て

フィリピンは南シナ海を巡る「中国の主張と行動の違法性」についてオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に国連海洋法条約に基づいて仲裁を申し立てを行いました[15]

2013年以降強まる軍備

中国が西沙諸島ウッディー島の滑走路延長工事を実施

2014年以降人工島建設

中国が南沙諸島の7礁で大規模な埋め立て工事を実施

中国は仲裁裁判所に提訴された後も、協議に応じることなく埋立工事を継続しました。

2014年4月フィリピンに再米軍

「米比防衛協力強化協定」により、フィリピン軍基地にアメリカ軍駐留可能に

一時はアメリカ軍の撤退を要求したフィリピンですが、中国の脅威に対してアメリカとの間に「米比防衛協力強化協定」を結び、フィリピン軍基地にアメリカ軍が駐留可能になりました(再駐留については、国内でも意見が別れていましたが、2016年1月12日認められました)。

2016年7月12日南シナ海判決

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が中国の主張を退ける

2013年1月22日、フィリピンは国連海洋法条約(UNCLOS)に基づいて中国を提訴。中国が参加拒否の姿勢を貫くも、訴えのあった15項目中の14項目で以下のようにフィリピンの主張を認める判断を下しました[19]

  • 中国の9段線に歴史的権利無し

    中国の9段線内の海域に対する領有権の主張は国連海洋法条約に反しており、中国の歴史的権利及び主観的権利、管轄権は認められませんでした。

  • 南シナ海の地勢区分を裁定

    国連海洋法条約を厳格に解釈した結果、南シナ海の南沙諸島には「」「暗礁(低潮高地)」が存在するのみであり、これまで「島」とされてきた、イツアバ島(太平島; 台湾)、ティトゥ島(フィリピン)、スプラトリー島(ベトナム)などは「」と判断されました。この裁定に台湾は強く反発しています。

  • 中国の人工島建設による環境保護義務違反と違法操業や妨害活動によるフィリピンの権利侵害

    中国は南沙諸島の人工島建設よってサンゴ礁等の海洋環境保護義務に違反しており、また、中国漁民によるフィリピンの排他的経済水域内での違法操業を阻止せず、フィリピン漁民の漁業活動を妨害していると判断しました。

  • 南沙諸島問題の原因は中国

    中国はフィリピンが仲裁裁判所へ提訴した後も、協議に応じず継続してフィリピンに対する妨害行動や人工島建設を続けたため、関係性が悪化したと判断しました。

Pointハーグ仲裁裁判所は、国家間の「境界線の紛争」に関する管轄権はありませんので、この裁定によってフィリピンと中国の領有権紛争が解決したわけではありません。
2016年7月12日中国の反発

中国は仲裁裁判所の裁定に対し、反論する声明を発表

中国は「中華人民共和国政府の南中国海の領土主権と海洋権益に関する声明」を発表し、仲裁裁判所の裁定を受け入れられないと以下のように反発しました[20]

  • 南シナ海は2000年前から中国の領土

    南シナ海は古代から中国が発見、貿易路として利用し、平和的に主権を担っている。

  • 違法占拠しているのはフィリピン側

    (上記の主張を元に)中国の領土である南シナ海南沙諸島の島嶼をフィリピンが違法に占拠している。

  • 協議に応じないのはフィリピン側

    中国は話し合いによる解決を目指していたが、フィリピン側がこれに応じないため問題が長期化している。

  • 問題を複雑化したのはフィリピン側

    フィリピンは南シナ海領土問題に対し、一方的に仲裁裁判所に訴えたことでより問題を複雑化している。

  • 中国は南シナ海の平穏の要

    中国は憲法に従い、国際法を尊重しており、常に平和的な解決を目指している。

南シナ海侵攻布武図

現在南シナ海沿岸諸国の支配している主だった岩礁です。赤い9本の破線が9段線で、その南端はマレーシア沖80kmにあるジェームズ礁にまで達しています。

南シナ海の各諸島域での実効支配の様子
諸島域実効支配
東沙諸島(プラタス諸島)中華民国(台湾)
西沙諸島(パラセル諸島)中国
中沙諸島(マクルスフィールド諸島)中国
南沙諸島(スプラトリー諸島)中国、中華民国(台湾)、ベトナム、フィリピン、マレーシア
南ナトゥナ諸島インドネシア
アナンバス諸島インドネシア

※ 領有権争いは起きていません。

中国の領有権の主張と目的

中国の主張の根拠

中国は、古くは2000年前漢の時代から「漲海」として南シナ海に関する記述が残っており、「長い歴史の過程で形成されてきた南シナ海における中国の主権と関連する諸権利は、歴代の中国政府に受け継がれ、国内法によって何度も再確認され、国連海洋法条約を含む国際法規によって護られてきた」という歴史的な権利から、9段線内の領有権を主張しています。
しかし、中国は9段線の法的根拠には一度も明確に言及して来ませんでしたた[19]

Point中国の国家観には「大一統(周辺地域を取り込んで国家の統一を保つ)」の統治思想が根底にあり、国際法に関係なく一方的な領土概念を持っています。また、中国には「国境は国力に応じて変化する」という概念、「戦略辺疆」を持っています。

中国の目的

  • 太平洋をアメリカと二分

    中国の海洋に関する計画では、2040年までに太平洋をアメリカと二分して支配することを目標としており、南シナ海全域の支配をその足がかりとしています。

  • 海洋・海底資源の独占

    1969年に行われた南シナ海、タイランド湾の鉱物資源調査の結果、ここに油田がある可能性があることがわかり、中国は漁場としての海洋資源とともに海底資源も独占する狙いがあります。

  • 東アジア圏からの脱アメリカ

    中国はアジア信頼醸成措置会議で「アジアの安全保障は、アジアの人の手で守るべきだ」と発言しており、東アジア圏からの脱アメリカを目論んでいます。

中国が台頭した理由

  • サラミスライス作戦

    中国は周辺国との大規模な軍事的衝突を避け、国際社会の批判が起こりにくいところ(問題になりにくいところ)で少しずつ国内法整備実効支配による既成事実を積み重ねて、戦術的に周辺国の勢力圏をそいでいきます。

  • 安全保障理事会の常任理事国

    中国は国連安全保障理事会において拒否権を持つ常任理事国であるため、よほどのことが無い限り国連は手出しが出来ません。

  • 高い経済的依存度

    中国は周辺国にとっても最大の貿易相手であるため経済的な依存度が高く、領有権争いをしている現在でもその割合は急増しています。

    対中国貿易収支(2015年, 単位:100万ドル)
    国名輸出輸入
    フィリピン6,393(10.9%:2位)10,832(16%:1位)
    ベトナム17,141(10.6%:2位)49,527(29.9%:1位)
    マレーシア101,531(13.0%:2位)129,360(18.9%:1位)

    ジェトロ(日本貿易振興機構) 2015年データ』より

  • 世界中で親中国の増加

    中国は領土問題に無関係なアフリカや中南米の国々に、積極的な経済援助を行うことで世界的に親中国を増やす活動を行っています。事実、世界的に見れば中国を好意的とする比率が増えています

    アフリカや中南米の国々にとって遠く離れた南シナ海の岩礁がどうなろうと関心がないため、中国に対して批判が起こりません。

  • 圧倒的な軍事力

    南シナ海の沿岸諸国(フィリピン、ベトナム、マレーシア)の軍事力を合計しても、中国の五分の一に満たない程に大きな戦力差があります。

    中国とフィリピン、ベトナム、マレーシアの海上・航空戦力比較
    中国フィリピンベトナムマレーシア
    艦船879隻、150.2万t126隻、4.4万t139隻、4.8万t78隻、5.9万t
    作戦機2,715機(内第4世代機810機)26機101機(内第4世代機40機)71機(内第4世代機36機)
    海兵隊等約10,000人(海軍陸戦隊)約8,300人約27,000人な し
    沿岸警備隊艦船等326隻以上(中国海警)72隻(沿岸警備隊)40隻以上(沿岸警備隊)
    4隻(漁業監視局)
    191隻(マレーシア海上法執行庁)
    132隻(海上警察)

    『南シナ海における中国の活動 2016年12月防衛省』より

  • 「チノイ」の影響

    チノイ(中国系フィリピン人)は人口比率では多くありませんが、フィリピン国内の経済に大きな影響力を持っています。

    2015年アメリカフォーブス誌発行の世界富豪番付にリスト入りしたフィリピン人11人のうち9人がチノイでした。

中国の人工島と軍拡化問題

人工島の軍事施設化

中国は実効支配している南沙諸島の岩礁域を埋め立てて人工島を建設し、ここに軍事施設やインフラの整備を進めています。これらは中国が主張する9段線を基準とした自国領海内の「主権国家に与えられる自衛権・防衛的措置」であり、「軍事化とは無関係」であると説明しています。

人工島の領有権は?

国連海洋法条約(UNCLOS)では、人工的に埋め立てなどで作られた島には領海、領有権は認められていません。しかし、人工島の建設自体は禁止されていませんので、領有を前提とした国内法の整備と共に既成事実化を狙って着実に勢力圏を広げています。

国連海洋法条約(UNCLOS)による島の定義
区分定義南沙諸島の地勢領海排他的経済水域
高潮時にも水面上にある自然に形成された陸地
人間の居住又は独自の経済的生活を維持することができないガベン礁、ファイアリー・クロス礁、クアテロン礁、ジョンソン南礁、イトゥアバ(太平島)、サウスウエスト島、パグアサ島、スワロー礁×
低潮高地(暗礁)低潮時には水面上にあるが、高潮時には水没するスビ礁、ヒューズ礁、ミスチーフ礁、セカンドトーマス礁××
人口島人工的に作られた島××

※ 2016年7月南シナ海判決によって南沙諸島には排他的経済水域、大陸棚を有する国連海洋法条約上の「島」は一つも存在しないという裁定が下されました[21]

Point中国は「9段線」をもって南沙諸島を含む南シナ海全体の領有権を主張しているため、公式には人工島に対する領海の主張はしていません[22][23]

以下、戦略国際問題研究所(CSIS)のWebサイトで中国の南沙諸島における人工島埋め立ての様子が写真で紹介されています。

中国人工島の及ぼす影響

中国の人工島に軍事施設・インフラが整備されることで以下のような影響があると考えられています。


大型港湾や滑走路、格納庫を建設
埋め立てた人工島に大型港湾や滑走路、格納庫が建設されることで、南シナ海全域に艦艇や海警船、戦闘機・爆撃機・無人航空機等の航空戦力を配備・展開することが可能になります。
南シナ海全域を警戒監視下に
さらにレーダー施設を配備して、陸海空から南シナ海全域を中国の警戒監視下におき、周辺国やアメリカ軍の行動を阻害する恐れがあります。

Point日本にとって、南シナ海は原油を運ぶための重要なシーレーンであり、ここの航行が妨げられると、大きく迂回せざるを得なくなり、輸送コストが大幅に向上する恐れがあります[24]

南シナ海周辺国の主張する領有権と衝突事案

近年発生した中国と南シナ海沿岸諸国との衝突事例(抜粋)

中国の9段線に対し、南シナ海沿岸諸国は南沙諸島を含む同海域の領有権をそれぞれ主張しています。
そのため、近年でも南シナ海では中国と沿岸諸国との間で小規模な衝突が起きています。

近年発生した中国と南シナ海沿岸諸国との衝突事例(抜粋)

2010年6月:ナツナ諸島周辺で、中国漁船を拿捕したインドネシア巡視船に対し、中国海上法執行船が砲の照準を合わせ威嚇
2011年5月:ベトナムの沖合で海上法執行船舶(海監)がベトナム資源探査船の作業を妨害し曳航していたケーブルを切断
2011年6月:バンガード礁周辺で作業中のベトナム資源探査船を中国艦船が妨害
2012年のスカボロー礁でのフィリピン艦船との対峙以降:中国海警船舶がプレゼンスを維持
2013年5月:セカンドトーマス礁周辺に艦船を派遣し、フィリピン軍の哨所(揚陸艦)への補給妨害
2013年10月:南ルコニア礁周辺へ艦船を派遣。また、2016年3月には海警船舶2隻が約100隻の中国漁船に同行しルコニア礁周辺に進出
2014年1月:ジェームズ礁周辺で艦艇が活動
2014年5月~7月:トリトン島南方に軍・海警船舶の護衛を伴いつつオイルリグを展開し、ベトナム艦船と対峙
2014年8月:中国海警船舶がリード礁で活動し標 フィリピン軍の哨所(揚陸艦)識を投下。2011年にもフィリピン船舶の航行を妨害
2015年4月:スビ礁周辺でフィリピン航空機に対する強力な光の照射、退去要求などを行い、フィリピン側が懸念を表明
2015年7月:西沙諸島においてベトナム漁船が中国船に衝突され沈没。9月にも中国船と見られる船舶による同様の事案発生
2016年3月:ナツナ諸島でインドネシア海洋資源水産当局が拿捕し曳航中であった中国漁船に対し、中国海警船舶が体当たり

『南シナ海における中国の活動 2016年12月防衛省』より

変わるアメリカ・中国・フィリピンの関係

フィリピンが南シナ海の領有権をめぐって中国をハーグ仲裁裁判所に訴えた後、フィリピンでドゥテルテ新大統領が、その後アメリカでもトランプ新大統領がそれぞれ誕生し、アメリカ、中国、フィリピンの関係性が少しずつ変化を見せ始めました。

2013年頃~対中協力

中国に対してアメリカとフィリピン等周辺国が協力

  • アメリカ ✕ フィリピン

    フィリピンのベニグノ・アキノ大統領は中国牽制のために、撤退していたアメリカ軍のフィリピン軍基地への再度駐留を決定しました。また、アメリカはフィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシアに対して2年間で計2億5,900万ドル支援を表明しています。

  • 中国 ✕ フィリピン

    フィリピンは2013年に中国の南シナ海の違法占拠に対してハーグ仲裁裁判所に仲裁を申し立てました。

  • アメリカ ✕ 中国

    アメリカは国際法上認められている「航行の自由作戦」によって軍艦を南シナ海に派遣し、警戒しています。

    航行の自由作戦:国連海洋法条約では、無害通航である限り、他国領海であっても自由な航行が認められています。そもそも南シナ海の南沙諸島の暗礁域に領海は認められていないので咎めることは出来ません。

2016年~フィリピン懐柔

フィリピンのドゥテルテ新大統領の登場

  • アメリカ ✕ フィリピン

    2016年6月に就任したフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテが新大統領は、麻薬撲滅のために超法規的な殺人行為を進め、それを批判したアメリカ(特にオバマ大統領)に対して「地獄に行け」「アメリカは信用出来ない」「武器販売を制限するならばロシア、中国を頼る」などと口撃して関係性を悪化しました。

    ドゥテルテ大統領はアメリカ、中国への外交カードをうまく使って双方から利益を得ようとしているようです。

  • 中国 ✕ フィリピン

    2016年10月、フィリピンは領土問題を棚上げして中国から6年間で総額240億ドルの経済援助を取り付けました。

  • アメリカ ✕ 中国

    アメリカはドゥテルテ大統領との関係性悪化の間も政府高官レベルでは協力体制は継続しており、「航行の自由作戦」を実施しています。

2017年~対中融和策

アメリカのドナルド・トランプ大統領の登場

  • アメリカ ✕ フィリピン

    アメリカのトランプ新大統領は、ドゥテルテ大統領の方針を容認しており、ドゥテルテ大統領も好意的に受け取っています。今年11月には東アジササミットの際にフィリピン訪問が予されているので、南シナ海問題にあたってどのような会談が持たれるかが一つの焦点になっています。

  • 中国 ✕ フィリピン

    ドゥテルテ大統領はフィリピンの南シナ海石油採掘計画に対して「中国から戦争になると警告された」と発言した一方で、中国やベトナムとの共同開発に前向きな姿勢を示しました[25]

  • アメリカ ✕ 中国

    トランプ大統領は北朝鮮問題解決のために中国との協力関係を重視しており、トランプ政権発足後、南シナ海への「航行の自由作戦」は中止されています[26]
    追記:2017年5月24日、トランプ政権発足後はじめて南シナ海での「航行の自由作戦」が行われました[27]

Pointハーグ仲裁裁判所の裁定によって中国の勢いは削がれると思われましたが、現状は領土問題は棚上げ状態になっています。特にアメリカの優先課題が南シナ海から北朝鮮の核問題に移行したことにより、フィリピンやベトナムは中国との協力関係を強めようとしています[28]。中国としては北朝鮮問題が長引けばそれだけ優位に事を運べそうです。

編集後記

ハーグ常設仲裁裁判所の判決によって中国も大人しくなるかと思いきや、新しく変わったドゥテルテ新大統領を経済援助金で懐柔し、南シナ海海底資源についても共同開発を進めることにも前向きな様子。アメリカも北朝鮮の核問題解決に向けて中国と協力関係を強化しており、表立って争うことも無さそう。
アメリカのTPP離脱、中国のAIIB設置によりますます脱アメリカ親中国に向かいそうです。あ、もうこれダメじゃん。
南シナ海で起きているこの事態は、尖閣諸島に対する中国のそれと類似しており、日本も隙を見せるとあっという間に占拠されてしまうことでしょう。

参考

南シナ海でなにが起きているのか 米中対立とアジア・日本

形式単行本
著者山本秀也
出版日2016年8月4日
出版社岩波書店
価格670円

購入先

中国が南沙諸島に人工島を建造,アメリカがこれに対して艦隊を派遣,南シナ海の緊張状態が高まっている.中国はなぜここで領有権をかたくなに主張しているのか.東南アジアの国々はどう向き合っているのか.解決のためには何が必要か.この地域の歴史から最新の動向までを盛り込んで解説.南シナ海でなにが起きているのか – 岩波書店

南シナ海における中国の活動 -2016年12月防衛省

形式プレスリリース
発行者防衛省
発行日2016年12月

ダウンロード先

1.中国の南シナ海における進出 3.南シナ海の「軍事化」に関する指摘 4.南沙諸島の地形開発による安全保障上の影響 5.中国を除く南シナ海沿岸国等の状況防衛省・自衛隊:我が国を取り巻く安全保障環境

脚注


引用

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